ぼんじーあ!サンパウロ在住のぴょんぴょ子です。
こちらブラジルではまもなく2021年のカーニバル休暇に突入しますが、今年は残念ながらリオのサンバカーニバルも、サンパウロのカーニバルも中止となり、非常に穏やかな時が流れています。
せっかくなので、今回はサンバについてのお話、とりわけ、サンパウロのサンバカーニバルに出場しているエスコーラ・ジ・サンバの強豪、Vai-Vaiについて2記事に分けてご紹介したいと思います!
ちなみにぴょんぴょ家、去年2020年はノルデスチ(Nordeste / ブラジル北東部)へ赴き、フレーヴォ(Frevo)やマラカトゥ(Maracatu)といった、サンバとはまた異なる音楽やダンスのパレードを見に行ってきたので、興味がある方は是非そちらの記事も合わせてご覧ください〜!
※2022年4月一部追記有り
1.そもそもエスコーラ・ジ・サンバって何?
直訳すると“サンバの学校”となるエスコーラ・ジ・サンバ(Escola de Samba) ですが、一言で言えばサンバチームのことです。
実は、サンバカーニバルはコンテスト形式をとっており、パレードはチーム単位で繰り広げられているのです。
各エスコーラ(各チーム)が各々その年のテーマを決め、そのテーマに沿った歌や演奏、ダンス、衣装、山車を1年間かけて作り上げ、パレード当日に2,000〜3,000人規模のメンバーが約80分間かけてパレードを披露し、優勝を目指します。
優勝賞金は円換算すると億単位になるほどの莫大な額です。一方で各エスコーラがパレードにかける金額も時間もエネルギーも計り知れないものがあります。
エスコーラ・ジ・サンバとは何者なのか、なんとなく分かってきましたでしょうか?
2.Vai-Vaiってどんなエスコーラ?
そんなエスコーラ・ジ・サンバの1つが、今回ご紹介するVai-Vaiです。
1)概要
まず、Vai-Vaiの概要をざっくりとまとめますね。
2)サンパウロの強豪チーム
Vai-Vaiはブラジル、サンパウロのカーニバルに出場しているサンバチームで、1930年にサンパウロ市の中心部付近のBela Vista区内に位置する、イタリア人移民の多い旧Bixiga地区で誕生して以来、同地区にクアドラ(Quadra / 本拠地)を構えています。
同カーニバルでは15回もの優勝経験があり、他のエスコーラと比較しても優勝回数が圧倒的に多い超強豪チームです。
3)もともとはサッカーチーム
そんな強豪Vai-Vaiの原点は1920年代まで遡ります。
当時、同Bixiga地区を拠点としていたCai-Caiと呼ばれるサッカーチームのメンバーによって、今のVai-Vaiの前身となるサンバチームが1930年に結成されました。
Cai-Caiの当時のチームカラーであったとされる黒と白が、今のVai-Vaiのチームカラーとして引き継がれています。
4)2020年は、結成90周年!
サンパウロのカーニバルは順位によってリーグ分けされており、毎年上位リーグの下位2チームと下位リーグの上位2チームが入れ替わります(実はリオも日本の浅草サンバカーニバルも入れ替わり制です)。
設立から89年間、Vai-Vaiはサンパウロの強豪チームとして常に最上位リーグでパレードを繰り広げてきました。しかし2019年、不慮の減点が重なり、上位リーグ不動のVai-Vaiが下位リーグへ降格してしまったのです(減点の背景には、前日の大雨によるダメージ、人種による問題、金銭的疑惑、など色々な噂が飛び交っておりました)。
これには、Vai-Vai自身のみならずサンバ業界に激震が走りましたが、結成90周年を迎えた昨年2020年、下位リーグで優勝を果たし、無事上位リーグに返り咲きました。
不本意な降格からたった1年で上位リーグへの昇格を果たした挽回劇をまとめたショートムービーが、Vai-Vai OfficialのYoutubeチャンネルに上がっているので興味のある方はご覧ください。
ちなみにぴょんぴょ子はもらい泣きしてしまいました。
あと、動画後半、優勝決定後のドンチャン騒ぎでの演奏もテンション爆上げなのに崩れることなくとても上手で、改めてVai-Vaiの凄さを垣間見た気がしました。
2021年、満を持して2年ぶりの上位リーグでのパレード参加のはずが、コロナ禍により中止となり、名誉挽回パレードはお預けとなってしまいました。
早く平穏な日々が戻り、Vai-Vai含めサンバ界にも活気が戻りますように・・・!
3.Vai-Vaiを見学した時の話
実は遡ること約5年前、2016年12月25日にVai-Vaiの練習を見学させてもらっておりました。
当時、知人の日本人がVai-Vaiのバテリア(Bateria / 打楽器隊)として参加していたので、アテンドしてもらえたのです。
当時はこうやってブログに書くとは思っていなかったので、写真数少なめ(しかも低画質)且つど素人目線ではありますが、その時の様子をご紹介します。
1)Vai-Vaiの練習場所
※2022年4月追記有り
基本的にVai-Vaiの練習は、拠点であるBixiga地区で行われます。
同地区のRua Cardeal Leme(カルデアウ・レミ通り)と Rua Dr. Lourenço Granato(ドトール・ロウレンソ・グラナート通り)と Rua São Vicente(サォン・ヴィセンテ通り)が交差する交差点を中心に、Praça Quatorze Bis(カトルズィ・ビス広場)側のRua Cardeal Lemeで行われます。
Rua São Vicente(サォン・ヴィセンテ通り)には屋台が設置されて物理的に道が塞がれ、その他の交差点付近の道も車両が通行止めとなり、交差点全面からRua Cardeal Lemeにかけてバテリア、ダンサー、マイクやアンプを必要とする歌や弦楽器のPA部隊、そして見物客が密になっていました。
交差点には舞台が設置されており、舞台上にPA部隊、舞台を背にしたふもとにバテリア、その先頭にハイーニャ・ダ・バテリア(Rainha da bateria / サンバの女王)メストリ(Mestre / 指揮者、Diretor da Bateriとも)、そしてRua Cardeal Leme側にダンサーがグループごとに集まっている状態です。
2)Vai-Vaiのクアドラ
本拠点と言われるクアドラは練習場所の交差点の真向かいにあり、Rua Cardeal LemeとRua São Vicenteの交わる角に位置しています(上記1)の住所や地図をご参照ください)。
小さな体育館のようなクアドラの中を覗いてみると、2017年カーニバルのVai-Vaiのテーマに関連したポスターや、過去の衣装が展示されていました。
このクアドラで本番の衣装の事前受け渡しも行われたそうです。
3)練習開始前の様子
基本的に週に2回、カーニバル直前には週3回ほどある全体練習は19時に開始することがほとんどで、たまにバテリアがパートごとに早めに集合して練習することもあるそうです。
今回は18時頃にBixiga地区に行ってみましたが、パート練らしき姿は無く、人も疎らでした。日によっては、この時間帯に小テーブルを囲ったパゴージ(Pagode / 少人数でのサンバ演奏)が行われるそうです。
Rua São Vicenteを物理的に封鎖している屋台でビールとespetinho(エスペチーニョ / 串焼き)を飲み食いしながら談笑している人も見受けられ、それに倣って時間を潰していると、交差点に設置されている舞台の下から保管されている楽器が徐々に運び出され、舞台のふもとに並べられていきました。
日も沈み始め少し暗くなってきた頃、いつの間にか交差点は人で溢れ、楽器は奏者の手に渡っていました。どうやら楽器の数には限りがあるそうで、日によっては早いもの勝ちで楽器を手にする人が決まることもあるのだとか。
19時を過ぎた頃にバテリアの誰かがガチャガチャと音を鳴らし始めたと思いきや、自然発生的に全体での演奏が始まりました。
4)練習中の様子
バテリアの位置と見学客の間には1mほどの高さの柵が置かれたので、その最前列に陣取ってバテリアを中心に見学しました。
写真の青い太線の位置に柵がある
本当は色々な場所から全体的に見学したかったのですが、見物客の数も多く、人混みをかき分けるのも一苦労で、ダンサーを諦めてバテリア・PAだけを見学しました。(それでも全然見応えがあり、満足できちゃいます)
①全体の流れ
見学時のバテリア・PAの練習の流れは、ざっくりまとめるとこのような感じでした。
- バテリアだけの練習 (約30分)
- PAも含めての練習① (約1時間)
- 休憩 (約30分)
- PAも含めての練習② (約1時間)
合計するとおおよそ3時間で、だいたいこのようなメニューが19時から23時の間に行われるのがほとんどだったそうです(あれれ、時間の計算が合わないゾ)。
全時間練習するのが基本ですが、練習①まで叩いて、②は①で叩けなかった人に楽器を譲って見学する(逆もまたしかり)なんてパターンもあるそうです。出席率に関しては厳密に管理されてはいないようでした。
②バテリア
メストリ(Mestre / 指揮者)に向かって、カーニバル本番と同様、小物楽器・大物楽器の順番で並んでいました。
小物はクイーカ(Cuíca)、アゴゴ(Agogô)、ショカーリョ(Chocalho)、タンボリン(Tamborim)の順に並び、
大物はヘピニキ(Repinique / へピーキ Repiqueとも)、カイシャ(Caixa)、スルド(Surdo)がごちゃ混ぜで構成されており、練習中に人(特にヘピニキやスルドの位置)がコロコロ入れ替えられていたのが気になりました。
当日のバテリアの人数の3分の1程。
右手の白い建物がクアドラ。
ちなみに、カーニバル当日はチンバウ(Timbau)も入っていたのですが、この日の練習では残念ながらTimbau勢を見つけられませんでした。
③ハイーニャの存在感
基本的にはバテリアの最前列にいるクイーカ勢とメストリの間で踊っているバテリアの女王ことハイーニャ・ダ・バテリアですが、練習中、バテリアの中をガンガンかき分けてバテリアの中で踊っている姿がよく見受けられました。
2017年カーニバルのVai-Vaiのハイーニャは、2009年から19年までの11年間Vai-Vaiのハイーニャを務めあげたCamila Silva(カミーラ・スィウヴァ)氏が担っていました。長い手足を活かした大きな動きと、疲れを全く感じさせない明るい表情と、止まることなく踊り続ける姿がとてもかっこよかったです。
他のエスコーラでは、お金や知名度によって契約がなされるハイーニャもいるそうですが、Camila氏の場合は本人の実力とサンバ&エスコーラ愛、そしてエスコーラや地元住民からの信頼によってポジションを勝ち取ったハイーニャだそうです。
あと、ハイーニャ・ミリン(Rainha Mirim da Bateria / 子供のハイーニャ)もCamila氏の横で踊っていましたが、幼いながらもキレッキレのダンスで感動しました。将来が楽しみですね。
ちなみに見学した日はクリスマスだったので、Camila氏はサンタのコスチュームで練習しており、その姿は文字通り紅一点で一際輝いていました。
④Vai-Vaiのメストリ
Vai-Vaiのメストリ(Mestre / 指揮者)歴40年を超える、Mestre Tadeu(メストリ・タデウ)ことAntonio Carlos Tadeu(アントニオ・カルロス・タデウ)氏にもお目にかかれました。同じエスコーラでメストリを続ける年数としては、リオのエスコーラも含めて最長となる伝説のメストリで、Mestre dos Mestresとも呼ばれています。
最多優勝回数のエスコーラVai-Vaiのバテリア、通称ぺガーダ・ジ・マカッコ(Pegada de Macaco)を作り上げてきたTadeu氏は、バテリアのみならずエスコーラやファンのみんなからの敬意と信頼を得ている方のように見えました。
練習中は真剣な面立ちでバテリア先頭の小さな高台に立ち、時には降りて直接指導しに行く、そんな職人ばりの勇ましい姿がほとんどでしたが、練習の合間にセルフィーに応じる際に見える笑顔は、エスコーラ愛にあふれた表情だったのがとても印象的です。
練習を見学した際、Tadeu氏がスルドを代わりに叩いていたので、ご参考までに貼りますね。
⑤PA部隊
ヴィオラ(Viola / ブラジルギター)やカヴァキーニョ(Cavaquinho/ ウクレレに似た4弦の楽器)などの弦楽器勢と歌い手による、マイクやアンプ、スピーカー等を使用するPA部隊。彼らは舞台の上に乗りバテリアを見ながら一緒に練習していました。
ぴょんぴょ子が見学した位置からでは全員の姿が見えず、正直、何人構成なのかもわかりませんでした。が、ただ一つ確実に言えるのは、歌も演奏もめちゃめちゃかっこよかったってことです。
男女混成のカントール、カントーラ(Cantor、Cantora)勢の声量も迫力も共に圧巻で、たまに超絶ハモリを披露してくれて、繰り返し聞いていても全く飽きませんでした。
⑥見学客
先ほどちらりと触れましたが、Vai-Vaiの練習を見学に来る見物人は大勢います。
Vai-Vaiメンバーである家族やお友達を見に来た人、ただのVai-Vaiファン、純粋にサンバが好きな人、競合エスコーラのメンバー、など、色んな観客がいました。
印象的だったのは、見学客も歌っていたこと。観客も一体となってチームのパフォーマンスが完成するように感じました。
4.Vai-Vai用語
さて、Vai-Vaiをより一層知れる、Vai-Vaiで多様される用語をご紹介します!
Preto e Branco(プレット・イ・ブランコ)
直訳すると黒と白。Vai-Vaiのチームカラーであり、Vai-Vaiを象徴する色。
Bixiga(ビシーガ)
Vai-Vaiのクアドラがある地区の旧称。現在は正式にはBela Vista地区として改変されたが、Vai-Vai誕生時の当時の名称を今でも用いることが多い。Vai-VaiはBixigaという綴りを用いるが、メディアによってはBexigaと記載されることもある。
ちなみに旧Bixiga地区はイタリア移民が多く住む地域で、美味しいイタリアンレストランが立ち並ぶ。
Bela Vista(ベーラ・ヴィスタ)
Vai-Vaiのクアドラがある地区名。旧Bixiga地区を含めた、Avenida Paulista(パウリスタ大通り)の北部の地区名。サンパウロ開拓時は、標高の高いパウリスタ大通りから同地区の眺めが最高出会ったため、Bela Vista(いい眺め)と名付けられたとの説がある。
Saracura(サラクーラ)
Vai-Vaiのクアドラがあるあたりに流れている小川の名前でVai-Vaiの愛称として用いられる。小川自体は現在は埋め立てられており全貌を見ることはできない。
Vai-Vaiのサンバ・ジ・エンヘード(Samba de Enredo / パレード中各エスコーラがテーマに沿って作る曲)の歌詞にはBixigaやBela Vista、Saracuraが頻出する。
Esquece(エスケッスィ)
直訳すると、「忘れろ!」。
テンションが上がった時や、テンションをあげる為などに「Aqui é Vai-Vai, esquece! / ここはVai-Vaiだ、忘れろ」との声が上がる。「忘れろ」の意は「他のことは全て忘れて盛り上がれ」や「忘れるくらい盛り上がれ」など諸説あるが、真意は不明。
Pegada de Macaco(ぺガーダ・ジ・マカッコ)
Vai-Vaiのバテリアの愛称。Vai-VaiのMestre Tadeuが映画『キング・コング』のコングの力強い姿から着想を経て名付けたという。
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以上、サンパウロの競合サンバチームVai-Vaiについての簡単なご紹介でした。
なお、2017年のパレードにVai-Vaiのバテリアメンバーとして参加した日本人のBさんの体験談もインタビュー形式で別記事にさせて頂きました。あわせてお楽しみください〜。
参考:
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